脳・心臓疾患の労災認定

はじめに

 最近、生活習慣病とされる「がん」、心筋梗塞などの「心疾患」、脳梗塞などの「脳血管疾患」による死亡が増加しています。このうち、脳や心臓の疾患を原因とするものは、国民の死亡者の3割を占めるに至っています。
 これらの脳・心臓疾患は、その発症の基礎となる血管病変等が、主に加齢、食生活、生活環境などの日常生活による諸要因や遺伝等による要因により徐々に増悪して発症するものですが、仕事が主な原因で発症する場合もあります。これらは「過労死」とも呼ばれます。
 厚生労働省は、これまで脳・心臓疾患の労災認定に当たって、主として発症前1週間程度の期間における業務量、業務内容等を中心に業務の過重性を評価してきましたが、平成13年12月、長期間にわたる疲労の蓄積についても業務による明らかな過重負荷として考慮することとし、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」(以下「脳・心臓疾患の認定基準といいます。)が改正されました。

  1. 脳・心臓疾患の認定基準とは?
  2. 認定要件
  3. 「業務による明らかな過重負荷」とは?
  4. 認定要件1「異常な出来事」
  5. 認定要件2「短期間の過重業務」
  6. 認定要件3「長期間の過重業務」

脳・心臓疾患の認定基準とは?

  1. 「認定基準」
     業務上の疾病と労災認定できる要件を示したもの
  2. 「脳・心臓疾患の認定基準」
     脳・心臓疾患を労災認定する上での基本的考え方、対象疾病、認定要件を示したもの

基本的考え方

 脳・心臓疾患は、その発症の基礎となる動脈硬化、動脈瘤などの血管病変等が、主に加齢、食生活、生活環境等の日常生活による諸要因や遺伝等による要因により形成され、それが徐々に進行及び増悪して、あるとき突然に発症するものです。
 しかし、仕事が特に過重であったために血管病変等が著しく増悪し、その結果、脳・心臓疾患が発症することがあります。
 このような場合には、仕事がその発症に当たって、相対的に有力な原因となったものとして、労災補償の対象となります。


対象疾病

脳血管疾患

  • 脳内出血(脳出血)
  • くも膜下出血
  • 脳梗塞
  • 高血圧性脳症

虚血性心疾患等

  • 心筋梗塞
  • 狭心症
  • 心停止
     (心臓性突然死を含む。)
  • 解離性大動脈瘤


認定要件

業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患は、業務上の疾病として取り扱われます。
異常な出来事 発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと
短時間の過重業務 発症に近接した時期において、特に過重な業務に就労したこと
長時間の過重業務 発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと


「業務による明らかな過重負荷」とは?

  1. 「業務による明らかな」
     発症の有力な原因が仕事によるものであることがはっきりしていることをいいます。
  2. 「過重負荷」
     医学経験則に照らして、脳・心臓疾患の発症の基礎となる血管病変等をその自然経過を超えて著しく憎悪させ得ることが客観的に認められる負荷をいいます。

発症の原因
業務による明らかな過重負荷
矢印
業務上
業務以外による過重負荷
矢印
業務外
発症の基礎となる血管病変等の自然経過
矢印
業務外


認定要件1 「異常な出来事」

 「発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと」とは?

異常な出来事
  1. 精神的負荷
     極度の緊張、興奮、恐怖、驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす突発的又は予測困難な異常な事態
    例えば: 業務に関連した重大な人身事故や重大事故に直接関与し、著しい精神的負荷を受けた場合などが考えられます。

  2. 身体的負荷
     緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常な事態
    例えば: 事故の発生に伴って、救助活動や事故処理に携わり、著しい身体的負荷を受けた場合などが考えられます。

  3. 作業環境の変化
     急激で著しい作業環境の変化
    例えば: 野外作業中、極めて暑熱な作業環境下で水分補給が著しく阻害される状態や特に温度差のある場所への頻回な出入りなどが考えられます。

評価期間

発症直前から前日


過重負荷の有無の判断
  1. 通常の業務遂行過程においては遭遇することがまれな事故又は災害等で、その程度が甚大であったか
  2. 気温の上昇又は低下等の作業環境の変化が急激で著しいものであったか等について検討し、これらの出来事による身体的、精神的負荷が著しいと認められるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断します。


認定要件2 「短期間の過重業務」  

 「発症に近接した時期において、特に過重な業務に就労したこと」とは?

特に過重な業務

 日常業務〈通常の所定労働時間内の所定業務内容をいいます。〉に比較して、特に過重な身体的、精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる仕事をいいます。


評価期間

発症前おおむね1週間


過重負荷の有無の判断

 特に過重な業務に就労したと認められるか否かについては、業務量、業務内容、作業環境等具体的な負荷要因を考慮し、同僚労働者又は、同種労働者(以下「同僚等」といいます。)にとっても、特に過重な身体的、精神的負荷と認められるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断します。

同僚等
 脳・心臓疾患を発症した労働者と同程度の年齢、経験等を有する健康な状態にある者のほか、基礎疾患を有していたとしても日常業務を支障なく遂行できる者をいいます。


【業務と発症との時間的関連性】

業務と発症との時間的関連性を考慮して、

  1. 発症直前から前日までの間の業務が特に過重であるか否か
  2. 発症直前から前日までの間の業務が特に過重であると認められない場合であっても、発症前おおむね1週間以内に過重な業務が継続している場合には、業務と発症との関連性があると考えられるのでこの間の業務が特に過重であるか否か

を判断します。


【具体的な負荷要因】

  1. 労働時間
  2. 不規則な勤務
  3. 拘束時間の長い勤務
  4. 出張の多い業務
  5. 交替制勤務・深夜勤務
  6. 作業環境(温度環境・騒音・時差)
  7. 精神的緊張を伴う業務

負荷の程度を評価する視点は(表1),(表2)のとおりです。



認定要件3 「長期間の過重業務」

 「発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと」とは?

疲労の蓄積

 恒常的な長時間労働等の負荷が長時間にわたって作用した場合には、「疲労の蓄積」が生じ、これが血管病変等をその自然経過を超えて著しく憎悪させ、その結果、脳・心臓疾患を発症させることがあります。
 このことから、発症との関連性において、業務の過重性を評価するに当たっては、発症前の一定期間の就労実態等を考察し、発症時における疲労の蓄積がどの程度であったかという観点から判断します。


評価期間

発症前おおむね6ヶ月間


過重負荷の有無の判断

 著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したと認められるか否かについては、業務量、業務内容、作業環境等具体的な負荷要因を考慮し、同僚等にとっても、特に過重な身体的、精神的負荷と認められるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断します。
 業務の過重性の具体的な評価に当たっては、疲労の蓄積の観点から、労働時間のほか、1.不規則な勤務、2.拘束時間の長い勤務、3.出張の多い業務、4.交替制勤務・深夜勤務、5.作業環境(温度環境・騒音・時差)、6.精神的緊張を伴う業務(表1及び表2)の負荷要因について十分検討することとなっています。


【労働時間の評価の目安】

 疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間に着目すると、その時間が長いほど、業務の過重性が増すところであり、具体的には、発症日を起点とした1か月単位の連続した期間をみて、

  1. 発症前1か月間ないし6か月にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いと評価できること
  2. おおむね45時間を超えて時間外労働が長くなるほど、業務と発症の関連性が徐々に強まると評価できること
  3. 発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できること

を踏まえて判断します。


注)1.  1.の場合の「発症前1か月間ないし6か月間」は、発症前1か月間、発症前2か月間、発症前3か月間、発症前4か月間、発症前5か月間、発症前6か月間のすべての期間をいいます。
2.  3.の場合の「発症前2か月間ないし6か月間」は、発症前2か月間、発症前3か月前、発症前4か月間、発症前5か月間、発症前6か月間のいずれかの期間をいいます。


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